技術解説3

「ALGoZaの発想」

1.位置指令と力指令

 

ロボットのモータを制御する際に、位置フィードバック制御を設定し、目標位置を指令値とする場合とフィードバック制御入力の力(トルク)を直接与える場合があります。一般に、産業用ロボットのコントローラは目標位置を指令値とする制御です。ALGoZAの実現方法にも、位置指令方式と力(トルク)指令方式があります。ここでは、力(トルク)指令方式について、歴史的経緯を説明します。

2. 逆変換からの関節角座標系制御

 

一般に、ロボットの作業を記述し易い座標系を利用します。この作業座標系は、ロボットの関節角座標系と異なる場合が多くなります。たとえば、作業座標系が直交座標系で、ロボットは関節角座標系となります。このような場合、作業座標で記述された目標値を、関節角座標に逆変換する必要があります。座標変換はロボットの教科書にも登場する基本的な技術です。

作業座標系で目標値を設定すれば、逆変換によって関節角座標系での目標値を求めて、関節角座標系の現在位置との差からフィードバック制御を実現できます。しかし、完全に誤差なく座標変換することは現実的に難しい場合が多いです。技術解説(1)の直角と平行も難しく、リンクの長さの計測誤差も存在します。硬いリンクの計測誤差があるのか?との疑問がありそうです。しかし、重量物を持てば撓みも発生して、リンク長さに影響します。また、そこで変形しないように剛体のリンクを利用します。その結果、現状のロボットは高重量となっているとも言えます。

 

3. 転置ヤコビ行列制御

 

今から40年近く昔の1981年に、竹垣・有本の論文が書かれています。これは、作業座標系で制御入力を構成して、その制御入力をヤコビ行列の転置行列によって、関節角入力に変換する方法です。すなわち、位置の座標変換を利用しません。

転置ヤコビ行列は、作業座標系の力と関節角座標系のトルクを関係づけます。竹垣・有本の方法はこの原理に基づいて、作業座標系のフィードバック入力を関節角座標系のトルクに変換しています。すなわち、位置の座標変換を利用しません。このために、座標変換誤差の影響を受けません。ロボットのダイナミクスパラメータが未知の場合にもこの方法は有効であります。

さらに、座標系間の誤差(運動学的誤差)が存在しても、この手法は有効であろうと予想されました。しかし、論文[1]では正確なヤコビ行列を利用していました。正確なヤコビ行列を仮定するためには、正確な作業座標系と関節座標系の変換を仮定しなければならず、座標系間の誤差を議論することはできませんでした。したがって、このヤコビ行列のパラメータに誤差を含む場合への理論的保証が必要でした。

Takegaki M。、 Arimoto S。、 “A new feedback method for dynamic control of manipulators”、 Trans of ASME、 J。 of Dynamic Systems、 Measurement、 and Control、 Vol。 102、 1981、 p。 119-125

4.近似ヤコビ転置行列制御

 

ヤコビ行列の係数に誤差が存在しても、作業座標系の目標位置へロボットが収束することは、直観的に正しいと我々は考えていました。すなわち、転置ヤコビ行列制御のヤコビ行列の係数は誤差を含んでも制御性能には影響がないこと、いわば転置ヤコビ行列制御はロバストであると考えていました。

その後、シンガポールからChien Chern Cheah氏がポストドクトラルフェローとして、立命館大学の有本・川村・伊坂研究室の研究活動に参加しました。彼のテーマとして、この研究テーマを再開しました。Chien Chern Cheah氏は、それまでの有本教授の理論的な道具立てを駆使して、見事に収束性を証明しました。それらの結果は、一連の論文にまとめられました。

 

Chien Chern Cheah、 Masanori Hirano、 Sadao Kawamura and Suguru Arimoto、 “Approximate Jacobian Control for Robots With Uncertain Kinematics and Dynamics” IEEE Transactions on Robotics and Automation、  Vol。19、No。4、 pp。692-702、 2003

 

C。 C。 Cheah、 M。 Hirano、 S。 Kawamura and S。 Arimoto、 “Approximate Jacobian Control With Task-Space Damping for Robot Manipulators” IEEE Transactions on Automatic Control、 Vol。49、No。5、 pp。752-757、 2004

5.科学研究費特定研究「移動知」

 

転置ヤコビ行列制御のロバスト性の証明は、Chien Chern Cheah氏の論文で一応の数学的証明が終わりました。しかし、私の頭の中ではまだ完全に納得できない部分が残りました。それは、転置ヤコビ行列制御のロバスト性は、微小なパラメータ変動がある程度ではなく、もっといい加減なパラメータ設定でもよいのではないか?カメラのキャリブレーションも不要ではないか?正しい関節角度も不要ではないか?もっと大胆に、制御方法に三角関数も不要ではないか?など多くの解決すべき問題が浮かんできました。

大学の理事としての管理運営業務を終えた時期に、ちょうどうまくこのようなテーマが研究できる文部科学省科学研究費特定研究「移動知」(研究代表者:浅間 一)に加えて頂きました。この研究は、生体と機械(ロボットなど)の学際領域を研究するものでした。

そこで、我々の研究室では、生体のモータコントロールを制御則提案のヒントとして、その本質はどのようなものかから検討しました。たとえば、目はたくさんの情報を入手でき、高い精度の運動、環境変動に有効な運動に貢献します。しかし、信号処理に100msec程度の時間が必要になります。一方、筋肉や皮膚にあるセンサは、もっと短いサンプリングタイムで制御に利用できます。ロボットの運動制御では、どのようにこのようなセンサを組み合わせればよいか?を考えました。 

技術解説

技術解説1 「システムインテグレーション」

<解説の見出し>

  1. システムインテグレーションによって成否が変わる
  2. 自然科学は分析的
  3. 人工物創造にはシステムインテグレーション
  4. ロボットにはシステムインテグレーションが必要
  5. ロボットシステムインテグレーション技術

技術解説2 「ALGoZaでロボットを動かす」

<解説の見出し>

  1. 理想と現実
  2. ロボットの内界センサと外界センサ
  3. キャリブレーションという問題
  4. ビジュアルフィードバックALGoZaの開発
  5. 針の穴の糸通し
  6. システムインテグレーション